転職活動回顧録②

「エージェントサービスへのご登録ありがとうございます。まずはお電話でお話させていただけないですか?」

 

P社のUを名乗る男から電話がかかってきたのは年始休みが明ける前であったと記憶している。こんなに早くレスポンスが来るものなのかと内心困惑しつつも、その日の夕方に電話で面談することになった。転職を考えた理由を聞かれ、時間外が多くてしんどいこと、今の会社に今後5年、10年と勤めるビジョンが全く浮かばないことなどを思いつくままに話した。Uはなるほどなるほどと相槌を打ちながら聞いていた。私がひとしきり話し終えると、Uは私が働いている業界全体の”地図”について話したうえで、スキルを活かしつつホワイトな環境を望むならこのあたりの島がおすすめですよ、といった類の話をしてくれた。立て板に水のごとく流れていくUの言葉を必死にメモしながら、ああ、きっと業界に詳しい人なんだろうなと思った。

 

「とりあえず有名どこは練習がてら受けてみて損ないですよ。」

「はあ、そういうもんですか...まあ検討してみます。」

「ええ、何かあればまた連絡してください」

 

こうして30分程度の面談は終わった。

書き殴ったメモを眺めたが、復元できた情報は半分もなかった。

 

幾ばくかして、今度は同じくエージェントサービスに登録したR社と電話面談することになった。R社のエージェントは転職活動の一般論(全体の進め方や書類の作り方)などについて説明した後、どのくらいのスケジュールで転職を考えているかを尋ねた。

 

「だいたいいつくらいに転職をお考えですか?」

「3月までは忙しくてほとんど動けないので、実際に応募して面接受けたりは4月頃からになると思います。」

「あー... エージェントサービスでサポートできる期間は3ヵ月までと決まっておりますので、一度サービスを停止し、4月の本格的に動くタイミングになってから再度ご登録いただく形になります。」

 

1~3月のスキマ時間でチマチマ準備を進めようと考えていた私は、この段階ではサポートを受けられないことに落胆しながらもまあそういうものかと受け止めた。

 

それから1週間くらいして、知らない電話番号から繰り返し電話がかかってくるようになった。調べてみるとP社の番号らしい。でもUではない。仕事中だったのでしばらくシカトしていたが、あまりにしつこいので休日かかってきたタイミングで出ることにした。

 

「はい、もしもし」

「P社のエージェントサービスにご登録いただきありがとうございます。初めにご転職を考えた理由などについて面談させていただきたいのですが...」

「エージェントでしたら御社のUという方からすでにサポートいただいているので結構です。」

「U... ですか?確認しますので少々お待ちください。」

 

しばらくして、電話に戻ってきた男はバツの悪そうな口調でこう告げた。

「申し訳ありません。社内で確認しましたが、Uという人物は確認できませんでした。」

「???」

じゃあUって何者だよ...と思いつつ、こっちが正規ルートっぽいのでとりあえず面談することにした。ちなみに、以降Uから連絡が来ることはなかった。

(たぶん、組織がデカすぎて内部の人間の動きを把握しきれていないのではないかと思う。)

 

オンライン面談当日、画面の向こうには若い女性のエージェントがいた。

「実はまだ活動開始したばかりで、軸も定まっていないんです。いろいろな選択肢を検討したいっていうかあ...」

「なるほど、ではまず職種から考えてみましょうか。」

 

エージェント曰く、軸が定まっていない場合は業界よりも職種から考えた方がよいらしい。業界間の違いより職種間の違いの方が重要だとか。私は現職と同じ職種をメインに考えつつ、事務系の職種も選択肢に入れていることを伝えた。エージェントはそれぞれの職種について、私の志向性(何がやりたいか、何がやりたくないか)に基づいたメリット・デメリットを提示してくれた。その後も気になることをいろいろ質問し、気づけば1時間半経っていた。結論として、以下の流れで進めることになった。

 

  • 1月~3月:現職と同じ職種を中心に、事務系職種も混ぜてエージェントから求人を紹介する。
    • 興味のある求人はアプリ上から「気になる」に登録する。逆にこれはないなと思う求人は「応募しない」に登録する。これにより、エージェント側で希望する求人を把握できるようになり、紹介する求人も洗練されたものになる。
  • 1月~3月:並行して応募書類(職務経歴書とキャリアシート)を作成する。作成したらエージェントに添削を依頼する。
  • 4月~:実際に応募する。
  • 4月~6月くらい:面接を受ける。

ちなみに、R社のエージェントと面談したときに「3か月しかサポートできないんよ」と言われた旨を伝えると、

「あ...そうなんですか?うちはそういう制限はないですけどねえ」(競合他社に対する明らかな優位性を認識した顔)

ということだったので会社によって違うらしい。実際、P社のエージェントには最初の面談から内定が出た後の退職交渉に至るまで、もう半年以上お世話になっている。

 

なお、正月に登録した別のエージェントとも面談したが、レスポンスが遅いこと、紹介する求人がP社で紹介する求人と丸被りしていることを鑑みて解約した。個人的に、エージェントは1社に絞ってよいと思う。増えると調整がめんどすぎてやってられん。

 

また、エージェントサービスはマジでエージェントとの相性が大事である。私はエージェントガチャに成功した(と思っている)ので必要なかったが、合わなければ遠慮なく変えてもらった方がよい。お互いのためにならないので。

 

かくしてスキマ時間を利用した転職活動がスタートした。送られてきた求人の仕分けをする。書類を作成する。聞きたいことがあればエージェントにLINEする。

 

―水面下で準備を整え、春の訪れとともに動き出す。

 

続く